没入感についてとヘッドホンとスピーカーの違いから考えた事

 ヘッドホンとスピーカーとの対比についての最後です。
 主にコンテンツへの没入度と言う観点から見ていくとともに、最後はこれまで感じてきたこと等についてまとめたいと思います。
 何故没入度という観点を持ち出したかと言うと、これがコンテンツを楽しむという点では非常に重要だと思うからです。

 そして、現時点で音楽への没入度という観点では、音質、音場の広さ、外界の遮断(感覚の遮断)の三つの要素が重要だと感じています。

 

1.音質について
 これはまあ改めて述べるまでも無いと思いますが、所謂オーディオ的な文脈で言う音質が良ければよいほど、没入度は高くなります。
 どれ程現実の音と差異を無くせるか、リアリティをどれ程高められるか、という点がやはり重要だという事です。
 この点に関して言うと、トータルで見るとヘッドホンは分が悪いと感じます。
 確かにヘッドホンは微細領域については非常に得意にしますし、音像の質感も一定程度まではスピーカーよりも高められやすい面はあると思います。
 しかしながら、最終到達点を考えると、現時点ではどうやってもヘッドホンでは敵わない領域があると感じるところです。
 特に低域の表現や、打楽器等の急激に音のエネルギーが高まる音に関しては、明らかに差があると感じます。
 私が使用しているKEF Reference1はブックシェルフで、スピーカーの中ではむしろこれらについて一番弱い部類の筈ですが、それでもヘッドホンのハイエンドと比しても歴然と優位です。
 また、現実のライブ等の体験と比べても一番差異を感じるところなので、恐らく今後もヘッドホンについてはここが課題になり続けるのではなかと思ってます。
 個人的な感覚としては、少なくとも後2回ほどはブレイクスルーが無いと、これらに関してはヘッドホンは厳しいままな気がします。
 何と言いますか、やはり耳元で鳴らす関係上音量は大きくできても、絶対的な音のエネルギーが大きい訳では無いのだな、と感じてしまうのです。
 もっとも、スピーカーに関しても一方勝ちできているかというとそういう訳でも無く、以前にも書いた通り音像の質感を上げるのはヘッドホンよりもかなり大変だと思います。
 そういう意味での難しさがあるので手軽では無いのですが、やはり突き詰めて行ったときの到達点というものを想像すると、スピーカーの方がかなり優位な点が多いなと感じます。

 

2.サウンドステージの広さについて
 これについては、音質的な評価の音場の広さとはちょっと違うニュアンスで、単純にある大きさよりも大きい音場を展開できるか、という視点です。
 ビジュアルの方で例を出しますけど、基本的にディスプレイ、テレビ、スクリーンなどにおいて、大画面になればなるほど没入感が高まると言われています。
 これは、人間の一定の視野角以上のサイズの物を見ていると、それ以外が気にならなくなってしまうからという理由の様です。そして、このような現象が聴覚についてもあるのではないか、という事です。
 この点においても、現状ではスピーカーが優位であると感じます。少なくとも現状でのヘッドホンの音場の広さでは、まだ足りていないと思っています。
 但しこの点については、割と技術的に解決できそうな気はしています。
 最近ではそういった技術のニュース(例えば360 Reality Audioとか)も結構ありますので、近い内にブレイクスルーが起きるかもしれません。
 もっとも、こういった処理をすると音質そのものに影響を与えてしまう事があるので、その辺りとの兼ね合いになるとは思いますが、期待したいところです。

 

3.外界の遮断について
 これは、視覚、聴覚等の人の感覚器官を、いかに遮断できるかという観点です。
 例えば、集中してリスニングするときに目を閉じて聴く人は多いと思いますが、これは手っ取り早く視覚を遮断し、その分音に集中力のリソースを振り分けているのです。
 このように、オーディオ以外の感覚をどれだけ遮断することが出来るか、という事です。
 この点についてはずっとヘッドホンの方が優位だろうと思っていたのですが、以外にもスピーカーの方が優位であるという結論になりました。
 しかもそれは、物凄い音量で鳴らしたという訳でも無く、近隣に迷惑をかけない、2階で鳴らして1階に迷惑にならない、という現実的な音量で鳴らしたにも関わらず、です。
 これについては最初理由が分からずに色々と考えていたのですが、恐らくヘッドホンがほぼ「聴覚のみ」しか遮断できないからでは無いか、と現時点では考えています。
 人は耳だけでは無く全身で音楽を聴いているという主張を見かけますが、そういう事なのだろうなと思います。

 

4.終わりに
 さて、ここまで色々と書いてきました。
 これまで述べた三つの要素でスピーカーが優位だったことからも察せられると思いますが、コンテンツへの没入という意味では明確にスピーカーに優位性を感じるところです。
 私のシステムは明らかにヘッドホンが主体であり、スピーカー関連は経験も機器もまだまだ始めたばかりの状態にも関わらず、です。
 勿論ヘッドホンにあってスピーカーには無い、あるいはヘッドホンの方が追求しやすい要素もあって、どちらが優れているという話では無いとは思っています。
 また、これらの優位性を把握してもなお、今後も私はヘッドホンオーディオが主体になると思います。
 ですが今回の経験から、もっと視野を広げなければならないなと強く感じました。
 特に、スピーカーでの音の追及はそこまでする予定は無かったのですが、ある程度真剣に取り組んだ方が良さそうだと感じています。
 かなりふわっとした感覚的な話になりますが、エコシステムとして見てヘッドホンとガチ度が違う様な気もしているので、そこを追及するまでは行かないと思いますが、その価値観を知ることは非常に有益だろうと思っています。