ヘッドホンにおける音場の考え方

 ヘッドホンの音場について、ウェブ上でレビュー等を見ていると、かなり感じ方に幅があるように思います。
 なので、私がヘッドホンで音楽鑑賞をする際において、ヘッドホンの音場をどういう風に捉えているかを今回は書いてみたいと思います。

 

1.空間の描写
 ヘッドホンでの鑑賞において最大の問題点になるのが、空間の描写だと思っています。これは、スピーカーには無く(あるいは極めて少なく)、ヘッドホンやイヤホン特有の問題です。
 スピーカーにしろ、あるいはライブ等の生演奏にしろ、その音は一定以上の空間に放射され、それを聴くことになります。
 つまり、空間とはそこにある事が前提で、録音物の再生などではある程度ソースの持つ情報が加味される場合があるにせよ、少なくとも空間が存在しないという事が有り得ません。
 しかしヘッドホンにおいては、その音が放射される空間が極めて狭く、また左右で分断されているという問題があります。

 この事を考えれば、ヘッドホン再生においては空間そのものが存在しない(あるいは極めて小さい)とも考えられますし、実際にそう主張する人も存在しますが、私は条件さえ揃えばきちんと空間を描写出来ると考えています。
 その方法は、「ヘッドホンがソースに含まれている空間に関する情報をしっかりと拾い上げる」というものです。つまり、実際に音が放射される先に空間が殆どないならば、ソースに含まれる情報だけで空間を形成するという事です。
 私も専門的に学んだ訳ではないので詳しくは無いのですが、人は音の位置関係を実に様々な要素から感じ取っているらしいのです。それは単純なレベルの大小だけではなく、音の立ち上がりの早さ、収束の早さ、残響、位相情報等が絡んでくるようです。
 そういった諸々を含んだ空間そのものの情報をソースから拾い上げることが出来れば、ヘッドホン再生であろうと空間描写は出来るのではないか、という事です。

 言ってしまえば錯覚に過ぎないという事になりますが、それを言い出すとそもそもステレオ再生自体がその類ですし、そう忌避することでも無いでしょう。
 もっともこれは、音源にそれらの情報がしっかりと含まれていることが前提ではありますが。


 この描写を可能にするには結構要求が厳しくて、特に情報量(微細領域の描写)に一定以上の能力を要求されます。
 個人的にはしっかりと空間を描写できるヘッドホンは、10万円を超えるような各社のフラッグシップクラスになってようやく、という感じだと思っています。
 しかもヘッドホンだけではなく、鳴らすアンプやDAC等の上流も一定以上のレベルが求められます。
 因みにこれが出来ていないと、音の定位はしっかりしているし位置関係も分かるのだけれど、音と音の間の空間情報が殆どなく無に近い、という感じになります。
 この能力が非常に弱い場合はもっと極端になり、音が直接脳に飛び込んでくるような感覚になる、と私は考えています。
 特に少し前の低価格帯の機種やポータブル機などは、この傾向が強かったです。手持ちだとHD25-1とかがもろにそんな感じですね。

 

2.音源との距離感
 これはヘッドホンの長所でもあり短所でもあると考えていますが、やはりどうしても音源との距離が近いという事があります。
 確かに近年の最上位のヘッドホン等においてはある程度音源との距離があったり、俯瞰的な描写をする機種もあります。
 ですがそれは、あくまで「ヘッドホンとしては」という意味であり、やはり極めて音源に近いことは変わりないと思っています。
 私自身の感覚としては、そういった音源と距離を取れる機種だと感じるHE1000seやVoce辺りでも、ライブで言うなら最前列(舞台の目の前)辺りが精々かなと感じます。
 殆どの機種においては音場は自分を起点として広がり、先ほどの例で言うなら「自分も舞台上にいる」という感じでしょうか。
 前方定位というものも無くは無いのですが、正直言ってこの点に限って言えば、たとえ現行の最上位機種ですら、数千円のスピーカーに完敗すると思っています。
 ただ、私はCROSSZONEのヘッドホンを聞いた事が無いのでそこは議論の余地が残っていると思いますが、それ以外のヘッドホンにおいてはそう大きくは変わらないだろうと考えています。


3.ヘッドホンの音場における広さ
 広大な音場という表現はよく見ますし私も使ったことがあるはずですが、その広大って一体どれ位なのよ?という問題です。
 これも人によって感じ方の違いはあると思いますし、そもそもヘッドホンの外側に定位するのか?という疑問もあります。
 恐らくこれは先にも書いた空間に関する情報による錯覚も込みなのだと思いますが、ヘッドホンより外側に定位するように感じる機種は存在します。
 しかしそれにも限界はあり、私の手持ちだと音場の広さに定評があるのはHE1000seですが、それで左右ならば最も遠い音で肩幅かそれより若干外という感じですね。

 ですので、音自体が外側に広がっていく先にも空間があるという意味での広さならばともかく、音の定位する位置という広さでは精々その位だと思っていた方が無難です。
 個人的に広大という表現を使いたくなるのは、ヘッドホンよりも外側に定位するように感じられた時、という具合でしょうか。

 

 以上が、私が現在ヘッドホン再生において感じている音場に関する諸々です。
 私がヘッドホンで音楽を聴くようになってから、今日に至るまで未だに理解できない(しかし割と多用される)表現が、「まるでスピーカーで聴いているようだ」という表現です。
 私の現在の再生環境はそれなりにクオリティが高い方だと思うのですが、それでもスピーカー再生のようだと感じることは微塵もありません。それは、STAXも勿論含めてです。
 あくまでヘッドホンはヘッドホンとしての鳴り方があり、スピーカーの鳴り方とはそもそも根本的に違うものだと私は考えています。
 以前ツイッターでヘッドホンとスピーカーの違いについて書いてみたいと投稿しましたが、まずはこれを書かないと駄目かな、という事でまずはヘッドホンの音場について私の考えを書いてみました。
 近い内に、現在私が感じているヘッドホン再生とスピーカー再生の違いについても投稿したいと思います。