テクノロジーの進歩による変化の功罪 前編

 さて、以前Twitterでも少し書いたのですが、最近のサブスクとその周囲に起こっている事でつらつらと考えた事を。
 なお、今回の記事は(といっても殆ど毎回ですが)特に何か根拠が有ったり、厳密な調査して書いた記事というわけではありません。あくまで私の個人的な考え、意見ということになります。

 

 まず、現在音楽のメインストリームとなっていると言ってもよいサブスクリプションモデルは、テクノロジーの進歩によって生まれたもの、と考えることが出来るでしょう。
 月額1000円程度で数千万曲が聴き放題、というビジネスモデルを考えたとき、様々な問題が発生するからです。
 まず、数千万曲のデータを実際に用意し、ストリーミング再生可能な状態にしなければならないこと。これについては、ストレージ単価が極めて安価になったこと、ネットワーク技術が発達したことが実現に貢献したことでしょう。
 また、それだけの金額で利益を出すためには薄利多売とならざるを得ず、必然的に多数の利用者を獲得する必要があります。
 ですが、それだけの多くのトラフィックを捌く回線速度やサーバの能力も、一昔前の能力では極めて難しかった(もしくは非現実的なコストがかかった)でしょう。
 他にも様々な理由がありますが、それは単に発想だけではなく、それを支える為の技術背景が昔では揃えられなかっただろうということです。

 ですが何よりも大きい要素は、多数の人々にスマートフォンが行き渡った事でしょう。
 どれだけ良いサービスを開発できても、潜在的なユーザーが少なければ事業として成り立ちません。
 そしてスマートフォンは、独自で通信回線を持ち、ある程度汎用性を持ったOSを持ち、少なくとも音楽の再生という点では全く問題ないレベルの処理能力を持ち合わせています。
 というよりは、スマートフォンがある程度行き渡った事こそが、音楽のサブスクリプションサービスを成立させた最も大きな要因の一つともいえるかもしれません。加えて、決済も簡単にできますしね。

 

これらの要素が何を生み出したか?

 

 まずサブスクモデルでは、これまで音楽が好きで多くのお金を落としていた層にアプローチするだけでは、ビジネスが成り立ちません。そういう人たちに対しても、サービスとして一人当たりの価格は定額なのですから。
 となれば、必然的にそれまであまり音楽にお金を落としていなかった層から顧客を獲得せねばならなかったでしょう。しかも、提供するサービスの価格を考えれば、これまでとはけた違いの数の顧客を、です。
 一月当たり1000円程度(10ドル程度)という価格は、そのあたりを吟味したときの均衡点なのだと考えることができます。 
 これが提供者側に起こった大きな変化だといってよいと思います。


 そして利用者にとっては、これまでとは比較にならないほど大量の情報に触れることが可能になったことが大きな変化でしょう。
 従来の購入する形とは桁違いの情報量であり、それは鑑賞スタイルを大きく変えたはずです。
 私は、人が捌くには到底不可能な情報量があることで、必須になる機能が二つあると考えています。

 一つは、自動で再生曲が選択される(プレイリストが作られる)仕組みです。
 まず、運営主体がAI等を利用した仕組みを用意したことが挙げられますが、こういった機能って万人にフィットするものを作るのは不可能ですし、運営側が作るものを信用しない人も一定数いるでしょう。
 そんな人の為に用意されたのが、「プレイリストの公開機能」だと思ってます。
 そもそも自分でプレイリストを作るというのは自分で好きな曲を探した人だということであり、それだけ音楽が好きで労力をかける事を厭わない人と考えることが出来ます。
 まあ言ってしまえば、これまでもあった音楽が好きな人にお勧めの曲を教えてもらうという行為が、これまでは知人から口コミで教えてもらっていたのが、不特定多数からのデータ提供になったという事でしょう。
 新たに流入したライト層、特にそこで音楽を探すことは面倒くさいと考える人にとっては、願ったりの機能でしょう。

 もう一つは簡単に曲を切り替えられる機能とインターフェースです。端的に言えば早送り機能ですね。
 これは別に珍しいものでもなんでもなく、サブスクが登場する前からも、どんな再生機器にでも搭載されていたでしょう。
 しかし、サブスクにおいては、これまでの機器に搭載されていた時とは重みが全く違う、極めて重要な機能と捉えられているはずです。
 これまでの「楽曲を購入する」というスタイルでは、余程のお金をつぎ込まない限り所持できる音源は常に限られた状態でした。
 そのような状況では、もちろん早送りを利用しないということは無かったでしょうが、それよりも所有している音源を「隅々まで味わう」ことが主流だったと考えられます。
 一方でサブスクにおいては、何度も書いている通り無尽蔵といってもよいほどの鑑賞可能な音源数があります。
 であれば、せっかくだからなるべく多くの曲を楽しみたいと考える人が多いでしょうから、気に入らない曲、そこまで行かなかったとしてもピンとこない曲は早々に飛ばすでしょう。
 無料のプランでは曲の早送りが出来ない(機能制限されている)というサービスもあるので、運営側もその重要性は熟知しているという事でしょう。
 特に、これまでは音楽鑑賞に熱心でなかった層はこの傾向が強いのではないか、と考えています。
 これまであまり音源を購入してこなかった層は、そもそも音源を隅々まで味わう、という意識があまり無いと考えられるためです。
 そして、そういった顧客層は非常に数が多く、サービス利用者の多数派となっていると考えられます。
 

 まあ、ここまでの内容はほぼ私の思考によるもので、現状サブスクを取り巻く状況を観察し、そこに横たわる理屈を想像し、こういうことではないのかと組み立てただけのものです。
 ですので、てんで的外れの可能性は十分ありますので、そこはお間違いのなきよう。
 さて、もう少し思考の幅を広げて、今後サブスクの登場を受けて、音楽の供給側がどのように影響を受けていくのか、というところまで後編では書いてみたいと思います。