個人的な転換点となった機種

 今回は私がこれまで購入してきたヘッドホンオーディオ関連の商品で、大きな転換点となったり、影響を受けたりした機種を紹介します。
 これは単純な性能の高低では無く、あくまで私が受けた影響の大きさで紹介します。

 

1.HD650 Sennheiser

 私の原点ともいえる機種、購入したヘッドホンとしては3台目です。因みに1台目はAKG K271S、2台目はGoldring DR150です。
 1台目も2台目も良い機種であったとは思いますが、そこまで大きな影響は受けませんでした。ですが、最初にHD650を試聴したときの衝撃は未だに覚えています。
 当時、ハイエンド機種を何か1台買おうと決め、最終的にHD650とK701に絞り込んだのですが、当初はK701の方に魅力を感じていました。
 ですが試聴してみて、明らかにHD650の方に魅力を感じました。HD650の方をK701の後に試聴したのですが、それこそ聞いた瞬間にこっちだと即決した程です。
 事前情報ではバランスが良いのはK701のように思えましたし、実際に試聴してもそう感じましたし、今から考えてもバランスが良いのはK701の方だと思っています。
 ですが、何と言うかHD650の方がとても余裕がある音に聞こえ、それが私にとっては全く感じたことのなかった感覚で、これを買う以外あり得ないと思ったのですよね。
 私はあまりたくさんの物を所持し続けないようにしており(そうでないと際限なく溜め込むため)、ヘッドホンについてもそれは同様で適宜整理し続けているのですが、HD650は最初期から未だに所有し続けている唯一の機種です。
 この時の感動がヘッドホンにのめりこむきっかけであり、原点となっています。
 因みにこの時の体験が、オーディオは自分の好みとの相性に依存する部分が大きく、世間の評価、合理的な判断といったものが必ずしも自分にとって正解になりえない、と思った体験でもあります。

 なお、HD650をそんなに好きだったなら何故HD800を購入してないの、と思われるかもしれませんが、これはもう好みで無かったと答えるしかないです。
 実際に試聴もしてますし、その性能の高さはしっかりと実感できましたし、その後も何度か試聴しなおしていますが、一度も買いたいと思ったことが無いんですよね。
 これは恐らく、自分でも意識出来ない領域で何かが障壁となっているのだろう、と今は考えています。
 もう少し経験を積めばもしかしたら言語化出来る時が来るかもしれませんが、今のところは分からないとするのが一番適当だと思います。
 現在はこの感覚に対して、無理に今の自分で納得できる答えをひねり出す方が害になりそうだと思うので、分からないまま考え続けていきたいと思っています。

2.HE-1000(初代) Hifiman

 私は様々な機種を遍歴しながら少しずつステップアップしてきた方だと思っていますし、ヘッドホンについてもHD650がしばらくは所持機の中でトップであり続けました。
 HD800以降のフラッグシップが高額化して以降はTH900やHE-6等を購入しその状況は変化するわけですが、そこまで大きな衝撃を受けたわけではありませんでした。
 もちろんHD650よりも性能が高いのは明らかでしたし、実際に聴いていても体験の質は向上しました。それゆえに満足度は高かったのですが、さりとて最初にHD650と出会った時ほどの衝撃があったか、と聞かれるとそこまでではなかったのです。
 しかしそれと同等レベルの、あるいはそれ以上の衝撃を受けたのがHE-1000でした。
 これは初の40万円クラス(と言ってもセールでだいぶ安くなった時ですが)の商品にして、無試聴購入です。
 何と言いますか、HE-1000の情報を最初に見たときに、これは買わなければならないと思ったんですよね。以前も別記事で書いたのですが私は時折こういう製品があり、これはもう理屈ではないので他人には何とも説明しがたいです。
 金銭的な事情や優先度の問題で発売後すぐとはいかなかったものの、やはり既定路線として購入に至りました。
 しかし、そこで得られた体験は本当に素晴らしいもので、この時ほどにワクワクして音楽を聴いていた時期はそうなかったと思います。
 以降、この価格帯のハイエンドを自分的に受け入れる事が出来て、最先端にキャッチアップし続けるのは無理でも、自分なりのペースでこのクラスを楽しんでいこうと決めたのでした。
 但し、個人的にHifimanのHE-1000発売以降の商売のスタンスに納得がいかなかったために、HE-1000seへのアップグレードを最後にHifimanの製品を購入検討することは止めました。
 恐らく、余程のことが無い限りこのスタンスは変わらないでしょう。

3.DA-N5 QUINTESSENCE Lavry Engineering

 HE-1000を購入してからの数年で、自分なりの価値観は概ね固まっていました。
 ヘッドホンは大体40万円付近のクラスまで、ヘッドホンアンプとDACは実売で20~30万円辺りの製品まででシステムを構築する、という感じです。トータルで見れば大体100万円前後で収まるイメージですね(ヘッドホンの使い分けは除く)。
 それでしばらくは満足してヘッドホンオーディオを続けられてたんですけど、いくつかの体験が重なり、一度100万円台のDACを購入してみよう、と考えることになります。
 このあたりの詳細については

DAC購入記 ~Lavry Engineering DA-N5 QUINTESSENCE~ - Memorandum of Headphone

に詳しく書いてあります。
 そんな折にDA-N5がその年のブラックフライデーセールの対象となり、更に消費税増税の還元キャンペーンが重なるという、恐らく二度と無いであろうセールに巡り合ったために購入を決断。
 なお、これも無試聴購入です。と言うか、多分余程の伝手がないとDA-N5の試聴は無理です。時期が時期ならRock on Companyならワンチャンあったかもですが、発売当初はともかく今となっては難しいでしょう。
 もっとも、試聴のためだけに東京まで行くというのは、金銭的にも時間的にも価値観的にも無しでしたけどね。
 とは言っても音質に関しては殆ど心配はしてませんでしたし、実際にHD650やHE-1000に勝るとも劣らない衝撃を受けた機種となりました。
 以前は1つの機種が100万円以上とかやべー領域があるもんだなあ、とか思ってたんですが、まさか自分がその領域に足を踏み入れることになるとは夢にも思いませんでした。
 ですが、その変化に全く後悔を抱かせないレベルの体験をもたらしてくれたという意味でも、DA-N5という機種と巡り合ったのは幸運だったと思っています。
 購入価格帯が上がったのでこれまでよりも購入ペースはさらに落ちるでしょうが、自分なりのペースで目指す場所に進み続けていこう、と決断した機種です。


 以上の3つが私が大きな衝撃を受けた、と言える機種です。何故この3つを挙げたかというと、それぞれの機種を購入した時に私の価値観が大きく変化し、後の行動に強く影響を及ぼしたからです。
 ですので、出会う順番が違えばまた違った機種が挙がったでしょうし(例えばUtopiaとか、THRORとか)、この3つが他の機種と比較して優位な機種だと思っている訳ではありません。
 もちろん他の製品と比較しても、同クラスならそうそう引けは取らないクオリティを持っているとは思いますけどね。

 残念ながらヘッドホンアンプにおいてはこれらの出会いと同等レベルの品には巡り合っていません。
 もっともこれは私が試聴できる機会が限られ、あまりハイエンドのヘッドホンアンプを聴くことが出来ていないという面も大きいかもしれません。
 一応ハイエンドと言える領域で聴けた機種は、マス工房model406、Re-lief E3、AudioValve Solaris(所持品)、Cayin HA-300、XI Audio Formula S(所持品)、静電型を合わせるならSTAX SRM-T8000、Hifiman Shangri-la Jr(セット)……意外とあるな笑
 ですが、Oji Special BDI-DC44やGoldmund THA、MSBのReferenceやPremiere HPA、Niimbus US5 pro辺りのヘッドホンアンプを聴けていないので、やはり機会の問題でしょう。
 これらの全てがあまり大きな印象を抱かない機種である、というのは流石に考え難過ぎるので。
 そして私としては、恐らくこの中からならばMSBが該当するだろうし、購入するのもこれだろうと感じています。
 私の使用スタイルに合っているというのもありますし、たどり着きたい領域においては恐らくこれが最適な構成なるだろうことが予想されるためです。
 何より、最も魅力的な商品は何か、と問われれば明らかにMSBのアンプが他をリードしてるんですよね。これも私個人の感覚的なものに依存する部分が大きいので、恐らく優劣ではなく好みなのでしょう(聴いたことはないので推測、ただ概ね当たる)。
 まあreferenceになるのかpremiereになるかはその時の金銭事情次第。価値観的にはpremiereなんですけどね。
 とは言え何があるかわからないですし、実際自分の予想通りになるならば今のシステムの大部分が存在しなかったはずですし。


 という訳でここ最近色々と昔話が続いたわけですが、これらは私の思考を整理する意味で書きました。
 すなわち、ヘッドホンのメインストリームがどう変遷してきたかを考え、その傍流やチャレンジングな製品なども振り返り、そして自分の変遷を確かめたわけです。
 これで大分自分的には整理できた感があり、次に進むべき方向性もはっきりしました。
 まずは自分がこれだと思えるヘッドホンアンプ探し。
 これは既に書きましたが、現時点ではほぼMSB1択です。理由としてはスピーカーオーディオとの共存を目指すために、上流に高品質のプリアンプを入れたいと考えているからです。
 となると、ヘッドホンアンプはパワーアンプ的な機能で十分となり、必然的にMSBしか選択肢がありません。
 まあ、必ずしも通常のHPAは駄目って訳でもないですが、その他諸々を総合的に考えると明らかに大幅リードしている状態です。
 先に書いた通り自分の感覚(勘)による部分も大きいんですが。

 これを導入したらヘッドホン側はほぼ完成で、しばらくスピーカーの方に力を入れることになるでしょう。
 パワーアンプの購入は、逢瀬の廉価版パワーアンプに決定しています。当初はもっと早くに買う予定だったものを予定変更しており、最低でも7月以降になるとは思いますが、かといって来年になることはまずないでしょう。
 その後は自作スピーカーを完成させた後、ある程度の品質を持った市販品のスピーカーの導入。リファレンス的な位置づけですね。
 これはKEFのRシリーズが最有力、ただ他にも面白そうな製品はいくつか見つけているので、その時に再検討ですね。
 最終的には上質なパッシブプリとアクティブプリ、そしてもう一つのハイエンドDAC(現時点で最有力は逢瀬開発中の物)の導入。これはいつになるのやら、という感じですが。
 パッシブプリの選択肢は最有力はPhasemationのCM-2000。技術的な面もさることながら、日本の企業というところもポイントが高い。
 Bespoke Audioも興味はあるのですが、こちらは新品は流石に無理。と言うか中古でもたぶん無理。値上げ前の価格ならワンチャンありましたが、改定後の価格では厳しいです。
 それに、CM-2000よりも抜きんでて魅力的に見えるか、というと私にとってはそうでもない感じなので、恐らくこちらを購入することは無いと思われます。
 アクティブプリは全くの未定ですが、一応Jeff Rowlandの上位機種になるんじゃないかなあ、とぼんやり思ってます。ここだけはまだ曖昧ですね。
 まあ、ここまでくると非常に先の話になるので、鬼が笑うどころの話じゃないんですが。

 これらはあくまで今の私の望みですが、現時点での自分の価値観の中で、最上を目指すとこうなるんじゃないかな、という構成です。
 たどり着けるのか、それとも変遷するのか、あるいは道半ばで力尽きるのかは何とも言えません。
 ただ、楽しむことだけは忘れないように進んでいきたいと思っています。