Eclipse384のDAC性能検証

 さて、今回はDACの能力について今回は検証していきます。
 当初はDA-N5との比較のみを行うつもりでしたが、追加でPrism Sound Lyra2との比較も交えたいと思います。
 Eclipse384とDA-N5は概ね同じような価格帯であり、実売で言えばDA-N5の方が少し上の価格帯になります。
 機能としてはEclipse384がAD/DA、モニターコントローラ、DDC等の多機能な機器であるのに対し、DA-N5は純粋なDACですから、当然DAC性能の比較としてはDA-N5の方が有利です。
 多機能のAD/DAとして、業務用機で最高峰と謳われるDACにどれだけ肉薄できていたか、というのが今回の趣旨になります。
 加えてLyra2とも比較するのは、Lyra2が概ねオーディオインターフェースの中では、音質は最上位に属すると言われている機種だからです。
 Prism Soundの中でも更に上位機種はあるのですが、Lyra2から主に入出力数が増えることがメインであり、音質的にはそこまで引けを取るものではないというのが一般的な評価だと思います。
 もちろん他メーカーで言えば競合はたくさんありますし、発売時期的にLyra2は最新のオーディオインターフェースとは言えなくなりつつあります(Prism Soundでならば現行機ですが)。
 ですがやはり今なお支持の厚いメーカーであり、現時点でもオーディオインターフェースの上位クラスと言っても良いとは思いますので、そこからどの程度のグレードアップになるかという目安にはなるでしょう。
 Eclipse384のクォリティがどちらよりの製品なのか、ということが気になる人もいるかと思われますので、そのあたりについても記していきたいと思います。
 比較には、ヘッドホンをFocal UtopiaとKennerton Thror、HPAにAudioValve Solarisを使用します。

 

1.Eclipse384とDA-N5の比較

 やはりと言いますか、基礎性能はDA-N5の方が明らかに上です。これは、好みの差ではなく明確なクオリティの差があると感じます。
 低域の量感は概ね同等ですが、下方向への伸びは明らかにDA-N5の方が優位です。Eclipse384は一定より下へは伸びていません。
 その為、Eclipse384は若干腰高な印象があります。ですが、低域~中低域あたりに量感があり、少し低域が盛られていてそれが量感に繋がっているように感じます。
 ですので総合的に見て広い領域でしっかりと低域を出せているのがDA-N5、一番下の方は出ていないもののそれ以外の領域で量感を稼いでいるのがEclipse384と言えます。
 Eclipse384の低域が音楽の下支えを出来ているか、と問われると少し迷います。ここを厳しく見る人は、出来ていないと判定を下しそうな気がします。
 低域の分解能も明らかにDA-N5の方が優位で、Eclipse384は若干低域が見えにくく分離も良くないです。
 音の質感は悪くなく、迫力や押し出しもありますしブーミーな感じもないので、良質な低音と言って良いと思います。ですが、描写の正確さという点ではやはりDA-N5には届いていません。
 中域は一番差が縮まる所ですが、ここでも基礎性能はDA-N5が優位です。一音一音の描写のクオリティでEclipse384は及んでおらず、若干荒い音に感じます。
 とは言ってもそこまで大きな開きが有るわけではないので、Eclipse384も十分健闘していると言ってよいでしょう。
 高域は低域ほどではないものの、差は小さくありません。
 Eclipse384は高域方向はしっかりと伸びているものの、細かな情報を拾い上げる事が出来ておらず、情報量不足と若干の荒さを感じます。
 ただ、そこをごまかさずに出している点は、やはり業務機で音をモニターすることが念頭に置かれている機種だと思いました。
 

 音の分離についてはDA-N5が優位ですが、Eclipse384でも流石に分離が悪いとまでは感じません。
 見えやすさの違いはあるものの、Eclipse384でも十分見えやすいといえる範疇です。
音場の広さは左右は同程度ですが、奥行き方向はかなり差があり、DA-N5がはっきりと優位です。
 また、Eclipse384とDA-N5で空間の描写で大きな違いがあり、それは音と音の間の空間を描写出来るか、という点です。
 DA-N5は音と音の間の空間をしっかり描写できるのに対して、Eclipse384は全ての空間を音で埋めてしまう為、音と音の間が上手く表現できておらず空間の存在を感じにくいです。
 その為に、DA-N5はまず空間があってそこに音が配置されており、相互関係や距離感もしっかりとわかるのですが、Eclipse384は音を繋ぎ合わせて空間を作っているような不自然さがあります。また、音と音の距離感や相互作用もあまり明瞭ではありません。
 私が聴いたことのある中価格~高価格帯のオーディオインターフェースDACで分離の良い機種は、音は分離しているけれども周囲の空間は描けておらず断絶しているような描写が多かったのですが、それとも違う描写で結構独特だと思いました。奥行き方向が見えにくいことも、この点に起因しているかもしれません。
 また、音数が増えてくるとEclipse384は余裕を失いがちで、かなり必死感が出てきます。
 音数が少ないうちは単に押し出し感のある元気が良い音という感じなのですが、音数が増えてくると元気というよりは一生懸命頑張って音を出しているな、と感じてしまいます。

 Eclipse384の総括として、基本的にはバランスの取れた高い基礎性能を持った元気のよい音。ただしハイエンドに届くレベルではなく、厳しく見れば全体的に音に粗さもある。 
 空間表現の奥行き方向の描写、低域の一番下の方はあまり期待しない方が良い、という感じでしょうか。
 Antelopeの機器は初めて使いましたが、各所のレビュー等を見て繊細系の音だという印象を持っていたので少し意外でした。

 ここまで書いてきたことを見るとEclipse384にかなり厳しめの評価になっていますし、実際全域で基礎性能はDA-N5が上で、決して差は小さくありません。
 ですが、そもそも価格帯的にDA-N5の方がやや上なことに加え、Eclipse384はADCを含めて多機能なのに対してDA-N5はDAC専用機なのですから、差があるのはむしろ当然です。
 DA-N5自体がDACの中でも定評があり、業務機の中では最高のDACの一つとも言われている機種ですから、Eclipse384は猶更分が悪いでしょう。発売年もDA-N5の方が後ですしね。
 ですから、Eclise384の機能性を考えれば、むしろDA-N5に対してよく健闘していると言ってよいと思います。
 Eclipse384が販売当時80~100万円程度であり、やや多めに見積もってコストの半分がDACに使われていると考えたとすると、40~50万円程度となります。
 そう考えれば、価格に見合った性能は持っていると言えるように思います。


2.Eclipse384とLyra2の比較

 基本性能は全域でEclipse384が優位です。
 低域方向の伸びについてはEclipse384の方が伸びており、Lyra2はあまり伸びていません。
 Lyra2の低域は量感の多さも目指しておらず引き締まった質なので、リスニング用途では低域が不足していると感じる人もいそうです。
 ですがそれは厳しく見た場合で、Lyra2の販売価格(概ね25万円前後)を考えれば、特にこのクラスで低域再生能力が低いという訳ではありません。
 中域についてはやはりEclip;se384が優位で、特に情報量の差が大きいです。一つ一つの音の描写で明らかにEclipse384が細部まで描けており、表現力に差があります。
 高域についてはLyra2はEclipse384程は伸びておらず、情報量も少ないです。その為か硬質というか滑らかさに欠けた音となることがあり、特にピアノの高域部分の再生で顕著です。
 音の分離についてははっきりとEclipse384が優位であり、Lyra2は音源によっては分離しきれない場合が出てきます。
 空間表現については両者ともほぼ同等です。Eclipse384がクラスの割にあまり上手くないのか、Lyra2の方が頑張っているというべきなのか、判断に迷うところです。
 左右の広さは同等で、両者とも十分に広いといって良いレベルでしょう。奥行き方向についてはどちらもあまり感じられず、平面的な鳴りに近いのであまり期待するべきではありません。
 各帯域でも書きましたが、両者を比較すると全域で情報量の差が結構大きく、Eclipse384が細部の描写までしっかりとこなせています。

 DAC以外の能力について、DDCの音質比較もしました。
 PC > Intona USBアイソレータ > Lyra2とPC > Eclipse384(同軸出力) > Lyra2で比較したところ、はっきりとEclipse384の同軸の方が基礎性能が高いです。
 情報量、音の滑らかさ、分離等で優位で、各領域毎の比較では大きな差が有るわけではないのですが、トータルで結構な差になっていると感じます。
 なお、上記のDACの比較は、PCからの出力はどちらもEclipse384で受けており、Lyra2はEclipse384の同軸出力を受けて再生させています。
 ですので、Lyra2を単体で使うならば更に差は広がります。

 

以上です。
 私が比較した限りでは、Eclipse384のDACについて、Lyra2レベルのオーディオインターフェースからは十分にアップグレードとなる実力を持っていると思いました。
 もっとも現行の最上位クラスであるLynx Aurora(n)やApogee Syhmphony I/O、Protools HDX、あるいはAntelopeの最新の上位インターフェース等と比較すると厳しくなっている気はします。
 このあたりの機種はどれも聴いたことは無いので憶測でしかありませんが、市場での評価を見るとEclipse384の発売年である2011~2012年当時からはかなり進化していそうですので。
 ですがデジタル周りの優秀さや汎用性の高さ等も考慮して考えると、未だなお第一線で活躍できる能力を持った機器だと感じます。
 今回の比較で感じた総合的なDACの性能の印象としては、Lyra2とDA-N5のちょうど中間地点もしくはそこからややDA-N5寄りにEclipse384がいる感じです。

 ただまあ今から買うことを考えれば、これよりはるかに安価で評価が極めて高いAmariがある(DACの直接比較でもAmariが優位らしい)ので、定価に近い額を出して買うのは流石に無いでしょう。
 既にディスコンで市場在庫もほぼ存在しないでしょうから、そもそも新品を買うこと自体が難しいと思いますが。
 ですが私が購入した時のように25万円程度であれば非常にお買い得ですし、今回の結果を考えると50万円程度ならば価格なり以上だとは思います。
 中古で買う場合はコンディション次第ですが、50万円の半額程度で25万円くらいまでなら手に入れる価値はあると感じます。
 ただそれを踏まえても、ぶっちゃけた話音質だけを考えるならAmari買えで済む話な気はするので、比較検討はしっかりと行った方が良いと思います。
 もっともこれは単に私の主観なので、あくまでこういった意見もある程度に捉えて貰えれば幸いです。