Kennerton Throrレビュー その2 自作ケーブル

 自作ケーブルでの音は、基本的にノーマルとの比較という形で記載して行きます。

【帯域バランス】
 帯域バランスはほぼフラットです。
ノーマルの時に感じた高域・低域の伸びの「あと一歩」という感覚は、高域に関しては完全に払しょくされました。
 低域に関してはあと一歩が半歩に程度までは伸びましたが、この先に行けるかどうかは今の所未知数です。
 ですが、総じて同価格帯で比較しても全く遜色ないレベルには到達できていると感じています。

【音場】
 一番変化が大きかった項目です。
 音場自体は全方位に一回り広くなりましたが、それよりも音源にこれでもかという程に肉薄するような定位の変化に驚きました。
 どこかで見た表現を借りるならば、「演奏者がいるステージ頭を突っ込んで聞いている様」な定位の仕方です。
 私が聞いた範囲では、高価格帯になればなるほどある程度離れた位置から、全体を見渡せるような定位と音場展開が多いように思うので、この価格帯ではかなり特異な表現だと思います。
 ケーブル自体の支配力なのかThrorが元々持っている素養が引き出されたのかは今の所判断しかねますが、条件が揃えばこういう音でも鳴らせるヘッドホンである、という事は確かです。
 単純な向上というよりは、得た物は大きいですが失うものもあった(ある程度のトレードオフがある)、という感じでしょうか。

【分解能】
 音の分離に関してはオリジナルよりも多少良くなりましたが、そこまで大きな違いではありません(元々が大分よかったのもあります)。
 情報量は格段に増えており、特に音と音の間の空間をしっかりと描写出来るようになったことは特筆すべきでしょう。
 一つ一つの音の情報量も増えており、前述の音源に近づいたこととも相まって、より細部や細かな表現の違い等が見えやすくなっています。
 総合的に見て、こちらは殆どトレードオフなく、純粋な性能向上があったと言って良いと思います。


【音色の描写】
 こちらもノーマルよりも向上していますが、音源との距離が近づいた分見えやすくなった面もあるので、印象程は大きな違いでは無いかもしれません。
 アコースティックな楽器の向上も大きいのですが、それよりもエレキギターエレキベース、シンセ等の電子音の描写が非常に魅力的になりました。
 音楽のジャンルでいうと、テクノやハウス等と非常に高相性です(Fatboy SlimとかChemical Brothersとか)。
 また、ロックやメタル、ポップスとも相性が非常に良いです。
 全域において音の厚みやキレ等を更に上手く表現できるようになっており、これが電子音を上手く鳴らせるようになった主な要因だと考えています。
 低域については下方向への伸びが改善されたこと、厚みやキレの表現が上手くなったことがダイレクトに影響していて、元々良かった表現に更に磨きがかかっています。
 中域については音色の描写が上手くなった事よりも、音源に近づいたという定位の変化の方が大きく影響しているように感じます。
 特にボーカルについては、音源によっては歌い手と肌が触れそうだと感じる程に近づくので、逆に苦手に感じる人もいるかもしれません。
 高域に関しては恐らく一番改善幅が大きく、ノーマルだと悪くは無い物の他の帯域に押され控えめに感じがちだったものが、他の帯域に負けることない存在感のある音になっています。
 高域方向への伸びが改善されたこと、鮮やかさの表現がより上手くなったことが要因でしょう。線の太さはノーマルと変わらずやや太めの表現です。


【総評】
 海外で情報を探していた時によく見た表現が、「Ordin→Odin Thridi→Throrと進化していく中で、性能は上がってるし万能性も増したけど、Ordinにあった魅力は減ってしまったよね」というものでした。
 私はOdin初代は聴いた事は無い物の、Odin Thridiは自宅でThrorとじっくり比較試聴できる機会に恵まれました。まあこれは実際はトラブルが元なのですが、それについては書くとまた長くなるので、次回ThrorとOdin Thridiとの比較記事で詳しく書きます。
 話を戻してその経験があるので、何となく言いたいことは分かります。それは一つ一つの音の密度、躍動感、熱気、勢いといった類の表現が明らかにOrdin Thridiの方が優位だったからです。
 総合的な性能で見れば明らかにThrorが優位なのですが、この方面に性能を伸ばすなら他メーカーのハイエンド、例えばHifimanのHE-1000se、FinalのD-8000、あるいはFocal Utopiaで良いよね、となってしまいかねないのです。
 しかし、今回自作ケーブルで鳴らして感じた事は、「ThrorはOrdin Thridiの持っていた魅力をさらに伸ばす方向性の音にも出来る」という事です。
 一つのヘッドホンで完結させるならばノーマルの方向性が良いでしょうが、ある程度使い分け前提ならば私は断然自作ケーブルを使った方の音が好みです。
 何故ならばこちらの方がThrorでしか鳴らせない音、つまり個性がより強くあり、他に代えがたい魅力を持っていると思うからです。
 但しノーマルの鳴らし方を更に尖らせたような感じになっているので、得意なものはより得意に、苦手なものはより苦手になっている事は注意が必要です。

以上です。
 買うには個人輸入しかなく試聴もほぼ絶望的、おまけに使いこなしによっても音の変わる幅が大きい部類なので、普通に考えればまず選択肢に上らない機種でしょう。と言いますか、殆どの人は存在すら知らないかもしれません。
 ですが、今後の状況の変化によっては日本に入って来る可能性も有りますし、何よりヘッドホンのハイエンド界隈は何とも静まり返っているように見える現在、kennertonはもしかすると一番精力的に製品開発・リリースをしている会社かもしれません。
 そういった訳で、Kennertonの事が気になっている人も多少はいるかもしれませんので、本記事がお役に立てれば幸いです。