Kennerton Throrレビュー その1 ノーマルケーブル

  今回はKennertonというロシアのメーカーの、フラッグシップであるThrorのレビューです。

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Kennerton Thror

 

 Kennertonは以前にOdinの初代とValiという機種が入ってきて以降、一切新機種が日本に入ってこなくなったメーカーです。
 ですがそれは日本に入ってこなくなっただけで製品開発は精力的に続けており、海外では(というか購入できる地域では)定評を得ているメーカーです。
 私がこれを購入したきっかけはまあ色々とあるのですが、一番の理由は「面白そうだったから」です。B級品で3割引きの物を見つけたというのもありますが。
 購入は結構前だったのですが、中々その真価を見極めることが出来ず2年以上経ってしまいました。最近ようやくある程度納得できる音で鳴らせたので、レビューを書ける状態になりました。

 まず本製品は、試用するケーブルと鳴らす環境で音が大きく変わります。
 また、その変化は変えた分だけ変化するというよりは、ある程度手を入れてもあまり変化が無い物の、一定のラインを超えると化けるという閾値のような物があると感じます。実際、ノーマルからCardas Clear Lightに変更しても、多少の改善がある程度でそこまで大きな変化は無かったです。
 購入してから長い事レビューを書けていなかったのも、その辺りに理由が有ります。
 ですので、まずは純正ケーブルを使用した状態の音について書き、次いで変更後の環境での音を記載したいと思います。
 なお、使用した自作ケーブルは、台湾製の空気絶縁ケーブル(12芯)にDH Labsの4pin mini XLR×2と3pin XLR×2で製作したものです。
 以下に製品へのリンクを貼っておきます。また、ケーブルの方はebayに出品されているものですが、最近DH Labsのコネクター類があまりebayで買えなくなってきているので、Audiohobby.euのサイトの方にリンクを張っておきます。

 

台湾製空気絶縁12芯ケーブル

DH Labs 4pin mini XLR Connector

DH Labs 3pin XLR Connector

 

 鳴らした環境は双方で結果が良かった、PC > Prism Sound Lyra2(DDCとして) > Lavry DA-N5 > Audiovalve Solarisです。

 

【共通仕様、装着感、備考等】
 ビルドクオリティは結構高く、少なくともHifimanやMr Speakersよりは明らかに高いです。しかし、Focal Utopiaのようなトップクラスと比べると厳然とした差がある、という感じでしょうか。
 定価を考えれば、値段に見合ったビルドクォリティとまでは言えないかもしれませんが、明らかに低いとまでは言えないという塩梅です。

 ヘッドバンドの長さ調整機構は恐らくKennerton位しか採用していない機構で、手回しでネジを緩めてスライドし、止めたいところでネジを締めて固定というタイプ(左右両方にあり)です。
 理論上は最も精密に調整できる機構でしょうが、調整の仕方に慣れるのに多少コツが要り、また非常に面倒くさい機構でも有ります。一度しっかりと調整しネジを固めに締め込めば殆どずれる心配は要らないので、そういう意味では合理的なのかもしれません。

 装着感に関しては側圧はかなり強いです。少なくとも、一時側圧の強さへの不満が散見されたHD660Sよりは確実に強いです。
 ですが、これは装着時のずれにくさを重視しているとも言え、音質的な面から見れば良い面もあります。イヤーパッドは肉厚でクッション性も良好なので、痛いという程では無いです。
 もっとも、私がある程度側圧が強い方を好むという事は割り引いて考えるべきかもしれません。
 頭頂部はシンプルな造りですがある程度圧力は分散されていて、快適という程では無いですが痛くなるようなことは有りません。
 総じて装着感はやや悪い~普通程度だと言えるでしょう。

 

【帯域バランス】
 帯域バランスはほぼフラットですが、厳しいことを言えば若干かまぼこ気味。
 絶対値で見れば低域への伸び、高域への伸びともに申し分ない物は持っているとは思いますが、あと一息の所が抜けきりません。
 特に同価格帯(40万円前後)の機種の中で競うにはやや分が悪いでしょう。流石に下のクラスに基礎性能が劣るという程では有りませんが。

 

【音場】
 音場はあまり広くありません。ハイエンド帯では恐らく最も狭い部類に属するでしょう。海外のレビューを見ても、音場の広さを弱点に上げている人は多かったです。
 定位は明瞭で、この点については不満は有りません。
 また、狭くはあるものの立体感や奥行きもある程度感じられるので、二次元的な表現では有りません。

 

【分解能】
 音の分離に関しては、素晴らしい物を持っています。
 特に低域の分離に関しては、同クラス帯の中でも秀でている方だと言ってよいと思います。
 細部の描写についてもかなり得意で、一つ一つの音の情報量はとても多いです。
 総じて、分解能については非常に優れたものを持っていると言えるでしょう。

 

【音色の描写】
 恐らくThrorを語るうえで一番外せない項目であり、最も得意とするところです。
 全体的な傾向として、繊細な描写も苦手という訳ではありませんが、力強さを表現する方が得意だと言えます。
 低域は最低域への伸びこそトップクラスには及ばないものの、しまりのある非常に質の良い音を鳴らします。
 音の厚みもしっかりと表現できますし、迫力ある音の表現なども素晴らしく、非常に魅力的な鳴らし方をしてくれます。
 中域、特にボーカルについては明確に一歩前に出てくれる鳴らし方で、J-popに限らずボーカルメインの曲とはとても相性が良いです。
 こちらも傾向としては、どちらかと言えば力強さのある声を得意としますが、全般的に得意だと言って良いでしょう。
 高域については線はやや太めの表現です。特筆すべき長所は無い物の、さりとて弱点と言えるほど劣っているわけではなく、同価格帯で求められる性能はしっかりと抑えていると言えます。
 しかし、低域、中域の良さに押されて若干控えめに感じがちではあるので、その点で惜しいと言えます。

【総評】
 サウンドの全体像を描く事よりも、一つ一つの音をしっかりと描くことに主眼を置いた機種だと言えます。
 その為、特にクラシックのオーケストラのように大編成な音源には相性が悪いと言わざるを得ません。逆に、小編成の物や独奏等ではジャンルに限らずその本領が発揮されます。
 また、小編成と言っても一般的なポップスやロック等で大半の物は問題ありません。