ヘッドホンの駆動方式による傾向の考察

 まず初めに、本記事は通常の記事よりもかなり私自身の主観が強い内容となります。
ですので、人によっては全く納得できなかったり、意味不明に感じる内容になると思われます。こういう考え方、あるいは感じ方もあるんだな程度に捉えてください。
 また、本稿で記載している表現はあくまで感覚的な話あるいは表現であり、物理的にそうなっているかというのは全く別の話なのでお気を付けください。

 

 さて、駆動方式による傾向の考察と題しましたが、ダイナミック型、平面駆動型、静電型のそれぞれの特徴を考えてみようという事です。
 私は、現時点においてはこれらの駆動方式はそれぞれに一長一短があり、全てにおいて他の方式を凌駕しているものは無いと考えています。
 そして、私自身の感覚があまり普通でないのか、一般的に言われているような傾向をそれぞれに感じることが出来ませんでした。
 例えば各所でSTAXのような静電型とダイナミック型は全く別物と表現されることが多いですが、私はそこまで違いがあるとは思いませんでした。
 確かに違う事は違いますが、それはダイナミック型の中でも存在する機種ごとの音質差と、さして違いがあるようには思えなかったのです。これは、平面駆動型が登場した時にも全く同様に感じましたし、その感覚はずっと同じでした。

 

 転機となったのはAudioValveのSolarisを購入したことです。
 これはリボン型を除く殆どの方式を駆動できるHPA(但し静電型はSTAX端子で近似の電圧のみ)であり、これまで実質的に専用のアンプでしか駆動出来なかった静電型を、ダイナミック型や平面駆動型と非常に近い条件で比較できる環境となりました。
 また、それなりに経験を積み、ハイエンドと呼べる機種をどの形式でも所有できたことも一因です。
 そして現在私は、これら三つの方式の大きな違いは「音の輪郭」と「音の指向性」だと捉えており、それぞれの特質に応じて得やすい音質傾向があると考えています。

 

1.音の輪郭について
 これはDACやアンプの音質評価等でも必ず言及するのですが、私はどうもこの点について気になる事が多いようです。
 端的に言えば音の輪郭をくっきり描くのかどうかという事で(因みに好きなのは描かない方向性)、これは機種ごとの差は有れど一般的に静電型<平面駆動型<ダイナミック型の順に強いと考えています。
 ダイナミック型は基本的にしっかりと輪郭を描く傾向、静電型は殆ど輪郭を描かない傾向、平面駆動型はほぼその中間からややダイナミックよりでしょうか。
 そしてその傾向が及ぼす音質として、音の分離あるいは分離感、音の強さや厚み、音源の相互作用等が挙げられると思います。
 基本的には輪郭が強く描かれているほど音が分離しているように感じますが、同時に断絶感を伴い相互の影響を薄く感じるように思います。よく言えば音がしっかりと分離しそれぞれに独立している、悪く言えば全体のまとまりがない、という感じですね。静電型はこの逆です。
 また、基本的には輪郭をしっかり描いている方が音そのものに塊感を感じやすく、強さや厚みを感じやすい傾向にあるように思います。
 輪郭をはっきり描く傾向が好ましく作用すると捉えているものが、低域の打楽器、エレキベースエレキギターシンセサイザーなどのアコースティックではない電子的に音を出す音源です。
 更に、小さな音よりも大きな音、繊細な表現よりも力強い表現に向いている特質でもあると考えています。
 逆に輪郭をあまりはっきりと描かない傾向は、主にアコースティックな音源やボーカル、打楽器でもウインドベルやクローズのハイハットのように主に高域に属し、強く打ち鳴らさないタイプの打楽器に向いていると感じます。
 また、弱小音や繊細な表現に向いており、大きな音や力強い表現にはあまり向いてないと考えています。
 もちろんこの辺りは、それぞれの方式内でも機種ごとにより強弱は有りますが、平均的にこの傾向にあるという事ですね。

 

2.音の指向性について
 これは本当に最近になるまでほとんど意識したことのなかった感覚で、何故そう思うようになったかも自分ではあまり分かっていません。
 現状で、音の指向性の強い順番に、静電型<平面駆動型<ダイナミック型だと考えています。
 ダイナミック型は音の指向性がはっきりしており、定位している位置から自分の方にだけ音が向かって来る感じ、静電型は定位している場所から全方位に音が広がる感じです。平面駆動型はあまり中間と言う感じはなく、結構静電型に近いでしょうか。
 これは音場の形成、特に奥行きの描写と空気感の描写、音の定位、音の実体感に関わっていると考えています。
 音場の形成については、静電型は音が鳴っている向こう側の空間が感じられやすい傾向で、外への広がりが感じやすいタイプだと思います。また、左右よりも奥行き、立体感が感じられやすい傾向です。平面駆動型もタイプとして分けるならこちらに近い。
 こういった特徴があるからか、ライブ盤の表現は平面駆動型や静電型の方が上手くできることが多いと感じます。但し、音源との距離が開きやすく、肉薄した描写は得意でない印象です。
 ダイナミック型は音がはっきりと自分に向かってくるので、音源の定位がつかみやすく、空間の広さが掴みやすい為か左右の広さは感じやすい傾向。但し、その向こう側への広がりや奥行きは感じにくい傾向でしょうか。
 機種にもよりますが、より音像に肉薄した描写が出来るのもダイナミック型の特徴だと感じています。

 但しこれはヘッドホンの基礎能力とも関係する部分が大きく、特に音場に関する情報をどれだけ捌けているかが非常に重要な要素になります。
 具体的には音源内に入っている各パートの音の強弱、立ち上がりと収束、残響、位相情報等ですね。詳しく知りたい方は、日本音響エンジニアリングさんのページを読んでみてください。
 これらの情報がきちんと捌けているときは上記のような傾向になりますが、このあたりの能力が低いと静電型や平面駆動型は欠点が目立つ描写になると考えています。
 どのような音かと言うと音との距離感がつかみにくい、自分の左右から面で音が押し寄せて来る、音場が広いはずなのに頭内定位が気になる、等ですね。
 ダイナミック型はこれらの欠点が目立ちにくい印象です。但し、その場合は音場型よりも音像型のような描写になると思います。
 また、基礎能力として音場の広さが同一なら、より閉塞感や狭さを感じやすいのもダイナミック型だと感じています。

 定位の仕方はダイナミック型の方がピンポイントで定位する傾向があり、掴みやすいのもこちらでしょう。
 静電型や平面駆動型は、どちらかと言えばまずは全体を描写しつつその中に各音源がある感じです。

 音の実体感については大雑把に言ってバスドラ、スネア、タム等中域~低域に属する打楽器、エレキベースエレキギター等のアコースティックではない音源についてはダイナミック型に分がある。
 アコースティックな楽器については静電型分がある、ボーカルについては一長一短と言う感じでしょうか(何を重視するかで変わる)。平面駆動型はいい意味で言えばいい所どり、悪い意味で言えば器用貧乏。
 エレキギターエレキベース等の電子音についてなぜそのように感じたかはこれまた推測なのですが、これらは生の音というものが無くスピーカーを通してしか聞かない音源なので、形式がほぼ同じダイナミック型が相性がいいのかなと考えています。
 逆にアコースティックな楽器は、実物を聞くときある程度の指向性があるとはいえ点音源として認識する事が多いので、静電型にリアリティを感じやすいのかな、と考えています。
 またこれらに追加して、クラシックのピアニッシモのように非常に小さな音は、明らかに静電型が上手に感じます。ライブだとより顕著に感じられるのですが、個人的にこういった弱小音はふわっと空間に浮かんでそのまま消えていくように感じていて、これは静電型が一番再現が上手いです。
 ダイナミック型だと、そういった弱小音にまで指向性がついて自分に飛んできてしまうので、あまり弱い音だと感じられないことが多いです。まあ、これはあくまで比較すればという話ではありますが。

 逆に大きな音や鋭い音、強く打ち鳴らすタイプの打楽器等はダイナミック型に分があるように感じますね。

 

 さて、長々と書いた上にまとまりのない文章となりましたが、以上が現状私が感じているそれぞれの方式に対する印象です。

 今後また感じ方に変化が出たり、新たな発見があったりしたら折に触れて書いていきたいと思います。